TVAC情報誌「ネットワーク」掲載原稿

東京ボランティア・市民活動センターから毎月刊行されます情報誌(10月号)に藤田代表の原稿が掲載されました。ホームページにも掲載して多くの方に読んで欲しい欲しいというリクエストにおこたえしました。

「音訳ボラの現状とこれから―視覚障害者等の情報保障のために」
藤田晶子(全国音訳ボランティアネットワーク)

音訳の難しさ
今、これをお読みくださっているみなさまのなかに、音訳についてご存知の方はどれくらい、いらっしゃるでしょうか。朗読なら知っているけれど、という方がほとんどではないでしょうか。
音訳とは、視覚からの情報が80%以上と言われるなか、活字の出版物等を目で読むことが困難な視覚障害者(利用者)のために、文字情報を適切に音声に置き換えることです。
1957年、ある教会の婦人部が、当時の筑波大学附属盲学校の生徒に、カセットテープで録音したものを提供したことが、音訳の始まりと言われています。
ところで、文字情報を音声に変えるということは、声に出して読める人なら、だれにでもできるような簡単なものではありません。活字で書かれた内容を活字を見ていない人に音声だけで、正しく伝えられるでしょうか。
そもそも、大部分の活字の本は、音声化されることを予期して書かれていませんし、更には、書き言葉というメディアを、音声というメディアに変換するということは、イコールにはなり得ません。
また、点字のように規則に従って正確に打てば、誰が打っても正しい本ができあがるのとは違う難しさもあります。
そして、1冊の本を音訳するには、相当な時間がかかります。早くて3ヶ月、半年はざらで1年以上かかることもあります。
下読みをし、次に下調べ(調査)、いざマイクの前へ。読了後は自身でモニター、続いて第三者が校正し、不具合があれば、音訳者に戻されて読み直しというような過程を経て、ようやく録音図書の誕生となるわけです。これ以上早くというのは、無理かもしれません。
視覚障害者と一言でいっても、生来の全盲の人、病気や事故で中途で失明した人(中途失明者)、ロービジョンの人(弱視者)に分かれるでしょうか。
当然ニーズはさまざまです。
2010年に、「サピエ図書館(電子図書館)」が誕生し、登録すれば、利用者は24時間いつでもダウンロードできるという便利なものができました。
しかし、国立国会図書館の蔵書数は約969万タイトル。「サピエ」の音声データは約9万タイトル(点字データは約19万タイトル)です。また、国内で年間出版されている書籍・雑誌は約8万タイトル、それに対し年間に音訳される資料は約7千タイトルです。いうまでもなく圧倒的な情報不足です。
さて、60数年に及ぶ音訳の歴史の中で、その発展を支えてきたのは、家庭の主婦たちでした。自前で録音機材を買い揃え、あちこちの音訳講習会や研修会等に足を運び、日々精進を重ねて自身のスキルアップに励んできました。
その音訳ボランティアが高齢化し、減少傾向にあります。音訳者の募集をしても、若い人が集まりませんし、育ちません。「こんなに大変なものだとは思わなかった」、「ボランティアをする時間があるなら、働きたい」
時代は変わりました。時代は、IT革命からAI革命に移っているそうです。音訳者の代わりにAIが活躍する日が来るのは、そんなに遠いことではないのかもしれません。

ボランティアこそのフットワーク
それはともかくとして、「情報は、早くなければ情報ではない」という人たちにとって、音訳に頼りきっていては間に合わない現実があります。
特にロービジョンの人のなかには、原本をスキャンし、テキストファイルに変換し、パソコンの音声読み上げソフトを使って、合成音声で本を読んでいます。
一言で言うなら、こういうことなのですが、これをロービジョンとはいえ、一人でこなすのは、大変なことなのです。ましてや、全盲の人はなおさら、想像を超える苦労です。出版社がデータを提供してくれればいいだけの話なのですが。
当会でも東日本大震災の直後、高知の利用者からの一本の電話でテキスト化に挑戦。音訳とは違う取り組みに戸惑いつつも、全国の会員が試行錯誤しながら今や、引きもきらない依頼をさばいています。図や表やイラスト、写真がでてきたら、読み上げソフトでは対応できません。私たちが読み原稿を作り、本文中に挿入しないといけません。これは日頃、音訳で培ってきたスキルですから、音訳とは関係のない活動というわけではありません。近年、依頼が確実に増えているにも関わらず、図書館等の取り組みは遅れています。その図書館から、手弁当で活動している当会にテキスト化講習会への講師派遣依頼がきます。フットワークの軽いボランティアにも限度はあります。
でも矛盾しているようですが、目先の困っている利用者のことを思えば、頑張るのもボランティアです。

ツールのデジタル化と行政の役割
一方、ここに来てずいぶんと法の整備が進んできました。
著作権法の改正、そして読書バリアフリー法の施行と続いています。
音訳ボランティアにとって、著作権がネックとなり、同じように時間も労力も使い製作した録音図書が死蔵されている音訳グループがあります。それが、文化庁長官の指定を受け、国会図書館に納められるようになりました。長年の運動の賜物です。
また受益者は、視覚障害者等となりました。この「等」の部分は、視覚障害者のみならず、寝たきりや上肢障害などの身体障害者、学習障害者が含まれます。正に利用者の拡大ということになります。ここで課題は、目に障害のない利用者が聴いても違和感のない読みを考えるべきなのではないでしょうか。
点訳から始まり音訳へと続き、今ではテキスト化が重宝されていますが、更には、マルチメディアDAISYというツールがあります。
特に学習障害の子ども達に、今もっとも有効な手立てと言われているのが、このマルチメディアです。
音声とその部分のテキストや画像等がシンクロして出力され、パソコンを使って利用するものです。この音声に関しては、合成音声でも作られていますし、肉声もあります。
せめて小学生くらいまでは、正しいそして、美しい日本語を子ども達に伝えたいと、音訳者の肉声を使った音源を提供しているものもあります。
このマルチメディアDAISYの製作は、なかなかハードルが高く、製作メンバーも少ないがために、教科書作りに特化されています。それもほとんど無償に近いボランティアです。その上必要なのは、教科書だけではありません。優れた児童書や絵本も必要です。そのどちらも、全く足りていません。お粗末な現状です。正に文科省が対応すべきことです。
更には数年前、ある盲学校の生徒の大学受験に際し、音訳とテキスト化で支援。すでに今は、大学院に進んでいますが、支援は続いています。
各大学には、学生支援室があるようですが、充分ではないようです。
更に本年6月からまた、大学を目指す盲学校生の教材や参考書のテキスト化での支援が始まっています。
地元のボランティアグループや図書館などで断られ、保護者が必死でサポートしてくれるところを探して、当会にたどり着いたものです。前述の大学院生が卒業した盲学校のいわば、後輩ですが、学校からは、情報の提供はなかったようです。私たちのテキスト化の原点となった、高知の利用者も私たちに出会うまで、あちこちに断られ続けたということでした。
盲学校も各図書館も社協もボランティアも情報を共有し連携しなければ、困難を抱えている利用者に速やかな対応はできません。
また、ここに聞けば、視覚障害者等のことは、すべて解決できるというハブ的な存在が必要です。
最後に、こういう時代ですから、行政にお願いしたいのは、無償のボランティアではなく、ぜひとも、予算化して有償ボランティアとしてもらいたいということです。情報保障は、行政のやるべき仕事です。
「読書バリアフリー法」に期待し、絵に描いた餅にならないよう注視していきたいものですそして、利用者を筆頭に私たちも、視覚障害者等の現状をどんどん発信していきたいと思います。

以上です。

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